初先発。僕はようやくチームの一員になれた――
お笑い芸人・杉浦双亮の挑戦記〈25〉
4回2/3をノーヒット、無失点。快投に誰もが感嘆した、そのときの思い――。
■柴田投手の姿から学んだこと
イメージトレーニングやシミュレーションに役に立ったのが、僕の先発試合の二日前の香川戦だった。僕ら愛媛マンダリンパイレーツの先発はシバっちゃん(柴田健斗)。いつもは抑えや中継ぎで活躍する元NPB組の速球派は、チームが9連戦の真っただ中ということもあって、先発の役割を任されていた。一方僕は、先発が決まっていたこともあり、バックネット裏でチャートを書く担当の日になっていた。チャート係は、相手打者の傾向や、ストロングポイント、ウィークポイントを書いてチームに提出する。偶然、僕は先発する相手のチャート係だったのだ。改めて打者の傾向を見ることができたことはとてもいいタイミングだったと言える。
もうひとつ、この試合で役立ったことがある。シバっちゃんは初回からどんどん飛ばしていた。150キロに迫る速球で相手をねじ伏せていったのだけれど、そのまま157球を投げて完封してしまった。試合後、車で一緒だったシバっちゃんに「今日はシバっちゃんのピッチング、とても役立ったし、なにより刺激を受けたよ! ありがとう」と言った。もちろん、それは配球とか、打ち取り方といったことではない。僕はシバっちゃんのようなストレートも、キレのいい変化球も投げられない。はっきり言ってレベルが違う。それは自覚している。けれど中継ぎから先発へと違う役割を任され、なにがなんでも最後まで投げる――それは、チームが連戦でほかのピッチャーが苦しい時期だということを理解していたからで――その姿に、マウンドに臨む気持ちの大事さを感じたのだ。
こうして僕は、できうる限りの準備をしてマウンドに上った。そして、冒頭に書いたように、理由は分からないけれど、この日「こんなにキャッチャーって近かったっけ」と思うくらい、すべてが近く感じられたのだ。
いざプレイボールがかかると僕の耳には何も聞こえなくなった。ただ、いつもより近いバッターとキャッチャーと野手と、スタンドと……それしか目に入らなかった。